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この作品、1993年に直木賞を受賞した作者の代表作の一つなのだが、何故か一向に文庫化されなかった。
その理由は作者が作品に手を入れたがっていたからのようなので、これはもう殆ど新刊と言っていいもの(2003年1月24日発売)。
もともとこの作者は常に作品に手を入れる習性があるようで、『神の火』も文庫化される時に、増補改稿しているし、『リヴィエラを撃て』も同じ題の原形作品に大幅に手を加えて今のような傑作に作り変えている。甚だしいのは、『わが手に拳銃を』という作品を下敷きにして、『李欧』という全く別の青春物語を創ってしまったということであろう。
したがって、この『マークスの山』も作者が納得するまで手を入れてから初めて文庫化が許可されたものと思われ、文庫化にあたり全面改稿を施した、と断り書きがある。
いずれにしても、直木賞受賞作品の全面改稿とは前代未聞である。
一読して、結構晦渋なところがあった印象は全く払拭されて、畳み込むようなテンポで次から次へと話が展開する。
殺人事件が起こり、それを捜査する警視庁の警部補を主人公に時系列的に捜査の状況を描いて行く作者の手腕は驚嘆する他はない。とくに刑事の性格がそれぞれ個性豊かに描き分けられ、彼ら刑事達の現場の捜査状況や彼らと警察上層部・検察との対立・葛藤も物語を立体的にしている。
初版が出版された時、「画期的な警察小説」と評された。しかしながら、作者はその評価に不満だったようである。またミステリー作家と言われることにも納得できなかったようである。
曰く「自分はミステリーを書いているつもりはない」、と。
この発言は当時小生なども理解できなかったのだが、昨年発表された『晴子情歌』を読めば首肯できるところはあるし、また今までの作品群も全く異なった様相を見せてくるのである。
この流れのなかで、新しい『マークスの山』を読めば、作者の意図は明らかであろう。やはり、これはミステリーではなく、敢えて誤解を恐れずに言えばマークスと名乗る青年達の青春物語なのであろう。
残念ながら、手元に旧版本がないので、旧版と新版がどのように違っているかは比較検討していない。
しかしながら、恐らく原形をとどめていない程書き直されているものと推定される。読後感が全く異なるからである。
これはまさにもう「本格小説」(解説の秋山駿の表現)の醍醐味を味わわせてくれる傑作だと思う。
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