乃南アサ


『風の墓碑銘』(新潮社)
『凍える牙』で直木賞を受賞した乃南アサの女性刑事音道貴子シリーズの最新作長編である。読み出したら面白くて一日で一挙に読了した。機捜から下町の警察署勤務となっている主人公は、住居の解体工事現場から発見された三体の白骨死体をめぐる事件を担当しながら、続いて起こった痴呆症の家主の撲殺事件に遭遇する。そして捜査の相方になったのが、あの中年刑事滝沢保。何か最近起こった事件を先取りしたようなストーリーである。

『凍える牙』では、警察組織のなかで仕事をする女性の難しさをこの滝沢刑事の言動で身をもって体験した主人公であるから、いい気持で一緒に活動できるはずがない。この滝沢刑事は、背も小さく、腹の肉が少々ついていて、やることなすことが典型的なオヤジである。しかし、実は主人公の能力を買っていて、本人なりに気を遣っているのであるけれども、お互いに腹を割った話ができない。主人公もだんだんそれが分かってくるが、自分も恋人との問題も抱えていて、警戒してそうそう簡単に本音が言えない。そんな二人の会話のやりとりの積み重ねが、徐々に以心伝心でお互いを理解し始めるのがいかにもうまく書かれていて、作者の筆の冴えを感じさせる。

主人公の事件捜査に対する鋭い勘とそれを支える滝沢刑事の名コンビは、やがて意外な犯人に辿り着く。作中体調が悪そうだった滝沢は、やはり病気を抱えていて、事件決着後入院するが、無事復帰した時には、主人公にとっては、もう欠かせない大事な相方になっていたのである。ミステリーとしても、作者の力量が十二分に発揮された快作である。


トップへ
トップへ
戻る
戻る