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久しぶりにSFを読んだ。眉村卓の壮大な連作集司政官シリーズの短編がすべて収録されている本である。東京創元社は、戸板康二の中村雅楽探偵小説全集もそうだったが、大変丁寧かつ周到な編集をすることは信頼に値する。今回も大長編の二作品『消滅の光輪』『引き潮のとき』を除く全短編(単行本二冊分)を、作中の年代順に並べなおして、一冊にまとめたものである。
私はSFに関しては、ご多分に漏れず宇宙への憧れがあり、若い時には海外ではアシモフやブラッドベリ、国内では小松左京、筒井康隆などを読んだが、それほど熱中した訳ではなかったから素人の読者である。恐らくヴェルヌやドイルの古典を読んだ目からは物足りない思いをしたからであろう。だから、その代わりと言ってはいけないが、SF映画の方を好んで見た。『2001年宇宙の旅』や『猿の惑星』、『スター・トレック』、そして『スター・ウォーズ』は何回も観た愛好する映画だった。
それが久しぶりに読んだSFである本書は、さほど期待しないで読んだのであるが(失礼ながら)、一読引き込まれた。とにかく面白いとしかいいようがないのだが、主人公は地球人類が多くの惑星に進出して植民しているなかで、植民者と惑星原住民(要は宇宙人であるが、地球人からみれば動物とも植物ともつかない怪物もいる)との間に立って、、地球連邦を代表する統治者が、この司政官と呼ばれる官僚である。彼らは、厳しく長期の訓練を経て、その地位につくが、部下は官僚ロボットがほとんどである。そして、時代の経過とともに、司政官は肥大化する植民者の要求と連邦政府の命令のはざまで苦悩することになる。
その司政官の姿を端正な文章で、緻密な展開で物語る七つの短編は、どれも壮大な叙事詩を読むような思いを味わせてくれる。派手な戦争があるわけではない。しかし、苦悩する官僚という主題は、今日的で普遍的テーマでもあり、読み応えがある。税込み1575円は文庫としてはお高いようであるが、決して購入して損は無いと思う。残りの長編も是非読みたくなるシリーズであるが、幸い『消滅の光輪』(上下)も続けて発売された。
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